あんたが大将2010/02/24

 録画しておいた「大集合!青春のフォークソング」(NHK・BS2・2月20日放送)を見る。このての番組は録画して見るにかぎる。すっかりテレビタレント化した俗物のMCや歌は、どんどんスキップしていけるので便利だし、時間の節約にもなる。

 海援隊が登場して歌い始める。海援隊かあ、とリモコンの早送りに指が行こうとして、ふと止まる。「あんたが大将」という歌。そのまま最後まで見てしまう。感慨とか感動を湧き起こす歌ではないし、心地よい音楽的内容をもってもいない。ひと言でいえば、皮肉っぽい歌詞を聞かせるだけの歌である。ただ、何かひっかかる。この違和感の正体を見極めるべく、歌詞を確認してみる。

 歌詞を調べてみると、酒の席での出世した者の自慢話、手柄話、ねちっこい嫌味を聞かされている人間が「あんたが大将、あんたはえらい」と追従っぽく皮肉っている歌である。しばらく考えて、何がひっかかった理由なのかおぼろげながらわかってくる。「あんたが大将」という言い回しの意味が、かつて私がこのことばに感じていたものと違うような気がするせいだった。

 「あんたが大将」ということばは、北九州あたりでよく使われる言い回しだと思う。私は少年期をこの地域で過ごしたので、この言い回しをよく耳にした。大人たちの世界では、ニュアンスはもしかすると違うのかもしれないが。ちょっと聞くと、皮肉の意味はあるものの景気のいい誉めことばのように聞こえるかもしれないが、何というかもっと違うニュアンス、もっと陰湿なニュアンスで使われることが多かったような気がする。このことばが流通している地域に住んだことのない人にはわかりにくいと思われるので説明はやめておこう。

 つまり、この歌は「あんたが大将」という言い回しの意味を適切に表現した歌ではなく、作者が感じた出世者の奢りに対するねたみ、反感を、「あんたが大将」という言い回しによって揶揄しているというだけの内容なのだ。つまり、方言の表面上の面白さをダシにした、とってつけたような歌なのだ。「あんたが大将」を繰り返すことで、コミカルな効果を狙っていることはわかるし、調子よさが出ていることは間違いない。歌の意味をどうこう言うのはあまり重要ではない。そういう感じ方は自由だし、つまらない歌はこの世に五万とある。なるほど。

 しかし、・・・・・やっぱり何かひっかかる。

 この歌のあとの武田のMCがまたひっかかる。勉強熱心のあまりつきあいを断った、かつての中学の級友が今地元で、八百屋をやっているのを見かけたという話。「(そんな男が)今野菜を売っているんですよ、みなさあーん。」と言い放つ(それがどうした、実家が八百屋だったらそれを継いでいるのは当たり前だろうという気がするのだが)。「この人の世はチャンスばかりじゃないんだよ心に燃える小さな夢をつまずきながら燃やすこと 世渡り上手に縁ないが祈りつづける悲しさよ」などと歌う男の口から出ることばとはとても思えない。ニセモノの歌を売るより、野菜を売る方がずっとましである。

 団塊世代の引退時期に合わせたかのように到来するフォークリバイバルを演出しようとするテレビ局の魂胆に乗って、「今」を歌うことを忘れはて、懐メロに汲々とする元フォーク歌手たちのおしゃべりこそ、長すぎる「自慢話」「得意話」「手柄話」(・・・・・、昔の客はこんなもんじゃなかったとか、地方でのコンサートでの騒ぎといったらとか・・・・・)、「あんたが大将」で揶揄されている面(つら)そのものなので、あまりに話がうますぎて、ひょっとして、この歌を歌うことによって、自らのイロニーを演じているつもりかもしれない、などという勘ぐりさえ起きてくる。

 もちろん、この番組の最大のイロニストは企画者たるNHKだろうが、それにしても、この嫌味のネチっこさといったら。

 やれやれ、あんたが大将。

 私が一番見たかったミュージシャンが、フィナーレの愚劣な大合唱に加わっていないことを確認して、ビデオを抹消する。
 ざまあみろ。

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